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貧困世帯をターゲティングするとき、なぜPMTとCBTで結果が異なるのか?

今回は、途上国の社会的セーフティーネット・プログラムにおける
受益者の選別方法(ターゲティング)に関する論文を紹介したい。

日本でも生活保護受給者の選別の難しさが話題になっているが、
途上国でのターゲティングの難しさは日本のような先進国とは次元が異なる。
途上国では、政府が世帯所得を正確に把握するのが極めて難しいためだ。

そのため途上国では、所得に基づいた資力調査(means-testing)ではなく、
所有資産や家族構成から資力を推計する代理資力調査(proxy means tests [PMT])や、
地域住民らが中心となって受益者を選別するコミュニティ主導型ターゲティング
(community-based targeting [CBT])などが用いられている。
そして、それぞれの手法に長所と短所があり、どの手法が最適かは状況しだいだ。 

そんな中、この論文では、状況しだいで変化しうるターゲティング・パフォーマンスの
比較にとどまらず、「なぜPMTとCBTでターゲティング結果が異なるのか?」という
より普遍的な問題に踏み込んで分析している。キモは、これまでの情報(community
information)とエリートの占有(elite capture)のトレードオフという構図ではなく、
「貧困の概念の違い」という新しい視点からPMTとCBTの違いを実証している点だ。

“Targeting the Poor: Evidence from a Field Experiment in Indonesia”
Vivi Alatas, Abhijit Banerjee, Rema Hanna, Benjamin Olken, and Julia Tobias
2012. American Economic Review, 102(4): 1206-1240.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 実際に貧困政策を設計している方たちへ 
★★★★☆ [星四つ] 開発系の研究者へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ 

著者らはインドネシアの640村で、貧困世帯に約US$3を支給する現金移転プログラムの
フィールド実験を実施している。このプログラムの受給者を選別するために、
3分の1の村ではPMTを、他の3分の1の村ではCBTを、残り3分の1の村では
PMTとCBTを組み合わせたハイブリッド・ターゲティングを用いている。
各手法のターゲティング・パフォーマンスは、消費ベースの貧困指標(1日2ドル以下)で
ターゲットした場合と比べて測っている。そのためのベースライン調査も実施している。

また、CBTとPMTの結果が異なる要因として、エリートの占有、コミュニティの努力
(community effort)、貧困の概念の違い(local concepts of poverty)、
情報の違い(information)に注目し、これら4点を検証できるように実験をデザインしている。

主な結果は、
 ・ 1日2ドル以下で貧困を定義した場合、CBTやハイブリッドに比べてPMTの方が
   より正確に貧困世帯を選別できた。しかし、違いはあまり大きくなく、
   最貧困層の選別では有意な違いは見られなかった。このパターンは、
   地域や村の特性に関わりなくみられた。 
 ・ 選別の満足度や合法性はCBTがもっとも高かった。例えば、PMT と比べ、
   CBTでは苦情件数が60%少なかった。
 ・ CBTにおけるエリートの占有の証拠はみつからなかった。
 ・ コミュニティの努力によってCBTのパフォーマンスは改善しうるが、集会を
   重ねるうちにパフォーマンスが下がる傾向がある。
 ・ CBTでは他の世帯の消費実態に関する情報がPMTに比べて少ない可能性もあるが、
   ターゲティング結果が異なる主要因ではなさそう。
 ・ CBTとPMTの結果が異なる要因は、「コミュニティの貧困の概念」が「一人当たり
   消費ベースの貧困の概念」とは異なる点にありそうだ。コミュニティでは
   消費よりも稼ぐ能力(earning ability)を重視する傾向がある。
   例えば、一人当たり消費が同等な世帯でも、未亡人の世帯を他の世帯より
   貧しいと選別する。

少し驚いたのは、ハイブリッド・ターゲティングのパフォーマンスが全ての面において
同等もしくは劣っていた点だ。CBTとPMTの組み合わせ方にもよるのだろうが、
ハイブリッドの有用性は「エリートの占有」の有無しだいのようだ。

また、最貧困層のターゲティングで、どの手法でも大差がなかった点も興味深い。
どのような貧困の概念でも、最貧困層は貧しいと認識されるからかもしれない。
ただ、情報やエリートの占有の状況は地域ごとに異なるので、
どの手法が最適かは地域ごとに検討する必要がある。
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腕力で、途上国の学校教育に関する男女差を説明する

学校に一年間長く通うことで将来の収入はいくら増えるのか(学校教育投資の収益率)?
また、子供の健康状態を改善することで就学年数はどれだけ増えるのか?
いまだ多くの研究者が取り組んでいる問題だ。

そして、多くの途上国で、「学校教育投資の収益率」や「健康状態の就学年数への影響」には
有意な男女差があることが実証されている。それら収益率や影響は、女性にとっての方が
男性にとってよりも大きいことが示されている。

では、なぜこのような男女差が生じるのか?有力な説の一つに、経済成長に伴って
「女性に比較優位がある技能集約型労働」の需要が増えるからだという説がある。
しかし、そのような労働需要の変化がみられない途上国でも有意な男女差は
実証されており、それら途上国における男女差はうまく説明できずにいた。 

そこで今回の論文は、上記のような男女差をあらゆる途上国において説明しうるモデルを提案
している。キモは、労働者の性質に腕力(Brawn)という新たな要素を加えることで、生物学的
男女差をモデルにうまく組み込み、生物学的仮説も含めて厳密に実証している点だ。

“Human Capital Investment and the Gender Division of Labor in a Brawn-Based Economy”
Mark Pitt, Mark Rosenzweig and Nazmul Hassan
2012. American Economic Review, forthcoming.

“Economic Growth, Comparative Advantage, and Gender Differences in Schooling”
Mark Rosenzweig and Junsen Zhang
2011. Working Paper.
おすすめ度:
★★★★★ [星五つ] 途上国の教育問題の研究者へ 
★★★★★ [星五つ] 途上国の男女格差の研究者へ 
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ  

今回は2本セットで紹介したい。1本目は経済モデルの貢献が大きく、
2本目ではそのモデルをより厳密に実証している。

これら論文のモデルはRoy-type経済モデルをベースにしており、既存モデルとは
主に以下の三点で異なる。
(1) 労働者の性質を技能(Skill)と腕力(Brawn)の二要素でとらえる;
(2) 腕力では男性に比較優位があり(生物学的事実1)、技能では女性に比較優位がある;
(3) 同じ環境で同量・同質の食事をしても腕力の成長は男性の方が大きい(生物学的事実2)。

1本目ではバングラデッシュのパネルデータ、2本目では中国の双子データ+αを使っている。
それぞれの推計手法は論文を参照してほしいが、双子データを使った2本目のほうが
より厳密に内生性をコントロールできている(と思う)。
また、腕力は体格や出産時体重などを使って推測されている。

これら2本によって実証された主なストーリーは以下のとおりだ。
・ 腕力集約型の職種では技能(学校教育)への報酬が低く、腕力の比較優位が
  職種の選択に(部分的に)影響している。そのため、腕力に比較優位のある男性は、
  学校教育よりも腕力集約型の職種を選ぶ傾向が女性よりも強い。  
・ 男性の栄養状態が改善した場合、腕力が強くなり、腕力の収益率が増え、
  学校教育の機会費用が増える。そのため、男性にとっての最適な就学年数は
  減る傾向がある。 
・ 一方、女性の栄養状態が改善した場合、女性の腕力は男性ほど強くならない。
  むしろ、より良い状態で教育を受けられるので、学校教育の収益率が増える。
  そのため、女性にとっての最適な就学年数は増える傾向がある。

これら結果は、開発政策が所得や就学年数などの男女差に影響する可能性を示している。
たとえば、健康改善政策は女性の学校教育の収益率に影響し、農業開発政策は男性の
腕力の収益率に影響し、結果として職業選択や所得の男女差を助長するかもしれない。
また、腕力の男女差と腕力集約型の職種はほぼ必ず存在することから、
ほんとんどの国で上記のような男女差がみられると考えられる。

ひさびさに琴線に触れる論文だった。しかし、この手の論文を和訳するのは本当に骨が折れる…。
英語表現のほうがシンプルなので、ぜひ元論文を読んでほしい。

情報の非対称性が逆転する時代

情報の非対称性では通例、「買い手自身のことは(売り手よりも)買い手のほうがよく知っている」
と仮定されている。しかし、昨今の情報処理技術の目覚しい進歩により、
「買い手の購買行動は、買い手自身よりも売り手の方がよく知っている」という現象が
起こっている(例えば、Amazon.comなどによる行動ターゲティング広告)。

この論文のキモは、このような「情報の非対称性の逆転」が、商品価格や消費者の厚生に
どう影響しうるかを考察した点だ。

“Helping Consumers Know Themselves”
Emir Kamenica, Sendhil Mullainathan, and Richard Thaler
2011. American Economic Review: Papers & Proceedings , 101(3): 417-422.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 消費者経済学関係の方へ
★★★☆☆ [星三つ]  情報の非対称性に興味がある方へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方々へ

著者らは簡単なモデルを使って、主に以下の三点に関して考察している。
 • 企業がこのような情報の非対称性を悪用(?)し、逆ターゲティング(Adverse Targeting)
  をする可能性がある。
 • 「企業が消費者の購買情報を当人たちに開示する」ように規制することで、
  消費者の購買行動(ひいては消費者の厚生)を改善できるかもしれない。
 • そのような企業の情報を使って、より効率的に市場をモニターできるかもしれない。
Proceedingで短い論文なので、詳細は論文を参照して欲しい。

途上国でも、携帯電話市場などで起こりうる現象のような気もするのだが…、まぁ、ないか。

P.S., この記事を読んで、日本では、TSUTAYAのTカード(提携企業の多い会員カード)などがいい例だなと思った。
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回り道して日本に戻って来た研究者。もろ農経だと需要がないので、かろうじて農経でがんばっています。

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