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外食の増加は本当に肥満増加の要因なのか?

外食と肥満の関係に関する研究の多くは、家庭内食より外食の方がカロリー摂取量が
高くなる点に注目し、外食の増加と肥満増加を結び付けている。しかしこの点だけでは、
外食のせいで肥満が増えたかどうか明らかではない。例えば、外食で摂りすぎたカロリーを
他の食事量を減らして相殺すれば、一日の総カロリー摂取量は変わらず、肥満にもならない。

また、外食の増加と肥満増加の相関は、単に消費者の嗜好の変化が要因かもしれない。
つまり、肥満は消費者が自分の嗜好に従った結果にすぎず、外食産業は消費者の嗜好(ある
いは需要)の変化に応えているだけかもしれない。もし消費者の嗜好の変化が原因なら、
肥満防止目的で外食産業を規制しても、消費者は外食以外の方法を選ぶだけで
総カロリー摂取量への影響は小さいだろう。

今回の論文は、このような疑問への一つの回答を導き出している。

“Are Restaurants Really Supersizing America?”
Michael L. Anderson and David A. Matsa
2011. American Economic Journal: Applied Economics 3(1): 152-188
おすすめ度:
★★★★★ [星五つ] 肥満関係の研究者へ 
★★★★☆ [星四つ] 農経関係の方へ
★★☆☆☆ [星二つ] その他の方々へ

まずはシンプルな消費者モデルを使って、「合理的な個人がレストランでカロリーを
摂りすぎた場合、別の食事でのカロリー摂取量を減らす」可能性を示している。
つまり、肥満になるかどうかは外食とは関係ないかもしれない。
また、消費者の高カロリー嗜好によって外食と肥満の相関を説明できることを示している。

実証では、消費者の体型が、レストランまでの移動時間を考慮に入れた「レストランの実効価格」
にどう影響されるかを検証している。米国のBehavior Risk Factor Surveillance Systemと
US Census ZIP Code Business Patternsのデータを使い、サンプルを州間高速道路周辺
の田舎に絞っている(551のZIPコード地域に住む13,470名)。それら田舎におけるレストランの
供給は、州間高速道路の利用者数に依存し、地元の需要とはほぼ無関係に決まる。
つまり、有意な内生性は存在しないと考えられる。より詳しくは、元論文をみて欲しい。 

主な結果は、
 ・ 州間高速道路の周辺エリアとすこし離れたエリアの間で、レストランの利用率には
   有意な差があるが、肥満率に有意な差はない。
 ・ 内生性をコントロールした重回帰分析(TS2SLS)でも、レストランの実効価格と
   肥満の間に有意な因果関係はみられなかった。
 ・ ファーストフード・レストランだけに注目しても、因果関係はみられなかった。
 ・ USDAデータを使い、一食事あたりのカロリー摂取量でみた場合、家庭内食より
   外食の方が平均で238kcal~338kcal高い。しかし、一日あたりのカロリー摂取量で
   みると、外食することの影響はたった+35kcalしかない。 
これら結果は、外食と肥満の因果関係に疑問を呈するとともに、消費者の嗜好の変化による
肥満増加の可能性を示唆している。そのため、レストランなど特定のソースを規制しても、
別のソースからのカロリー摂取が増えるだけで、肥満対策としては役に立たないかもしれない。

実証分析の設定がシンプルでかなりうまい。頑健性チェックの構成なども参考になった。
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歴史と公共サービスの質の間係@北部インド

今回は、インドの自然実験論文だ。この論文は、英国植民地時代の地租制度の違いが、
現在の公共サービスの質の違いに影響していることを実証している。キモは、既存の研究より
よりミクロなレベル(gram panchayats (GP)レベル [GP = 2-3村])で自然実験を
用いている点だ。

"Service Delivery and Corruption in Public Service: How Does History Matter?"
Priyanka Pandey
2010. American Economic Journal: Applied Economics, 2(July): 190-204
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 開発経済関係者へ 
★★★☆☆ [星三つ] 自然実験が気になるへ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方々へ

北部インドでは、1775年から1859年の間に、英国植民地政府により異なる2種類の地租制度が
導入された。地主ベース(地主が地租の査定+取り立てをし、政府に納入する)と村ベース
(村が土地を共有し、村の連帯責任で政府に納入する)の2種類だ。地租制度の選択は多分に
英国側の政治的事情によるもので、インド側にとっては外生的に決められた。
この論文は、このような歴史的背景を自然実験に利用している。

サンプルは、ウッタル・プラデーシュ(Uttar Pradesh)州の26県(District)に属する130GPで、
植民地時代の地租制度が地主ベースだったGP(地主地租GP)と村ベースだったGP(村地租GP)
に分けられる。このデータから、村地租GPに比べて、地主地租GPにおける現在の公共サー
ビスの質が平均的に悪いことがわかる。この相関は、地主地租GPでは社会的・政治的権力が
エリート層に集中してきためと考えられる。より厳密に因果関係を実証するために、
地租制度ダミー変数(地主地租GP=1)を説明変数に含めた重回帰分析を行っている。
被説明変数は、村ガバナンスの質の測度(村ミーティングの回数など)と公立小学校の質
の測度(教師の勤務状況、小学4年生のテスト結果など)だ。

主な結果は、
 • 地主地租GPでは、村地租GPに比べ、村ガバナンスの質が低い。例えば、過去6ヶ月間の
   村ミーティングの数が17%少ない。
 • 地主地租GPでは、村地租GPに比べ、公立小学校の質が低い。例えば、教師の出勤率
   が18%低い、小学4年生のテストの点数が21%低い、校費の横領が多い、など。
これら結果は、公共サービスへの依存度が低いエリート層が権力を握り続けたためと考えられる。
このような歴史的制度の影響をどうやって打ち破るかは、今後重要な研究課題になってくるだろう。

ネタも実験の設定も面白いと思うのだが、推計値の解釈の仕方がよくわからなかった。
どうやって%変化を計算しているのだろう?対数関数でもなさそうだし、被説明変数の
平均値で割ってるのかなぁ…。それならそれで、それら平均値を載せて欲しい。

健全な食生活を推進するために:カロリー情報 vs. 注文しやすさ

最近、メニューに摂取カロリーを併記するレストランが増えている。
ダイエットやメタボ対策のためのカロリーコントロールに役立ててもらうためだ。
しかし、「実際に効果があるの?」と疑問に思う方も少なくないだろう。
そんな方におすすめなのが、今回の論文だ。

この論文のキモは、「カロリー情報の提供(Information approach)」と
「注文しやすさの操作(Asymmetric paternalistic approach)」といった異なる二つの
アプローチの総摂取カロリー量への影響を、フィールド実験を用いて検証している点だ。

“Promoting Healthy Choices: Information versus Convenience”
Jessica Wisdom, Julie S. Downs, and George Loewensten
2010. American Economic Journal: Applied Economics, 2(2): 164-178.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 健全な食生活を推進したい研究者へ 
★★★★☆ [星四つ] 農業経済学関係者へ
★★☆☆☆ [星二つ] その他の方々へ

実験には、サンドイッチ店に来店した客638名(肥満率41%!)が参加している。
被験者は、デザインの異なるメニューからサンドイッチを注文する。
メニューのデザインは以下の3点の組み合わせで決まり、全部で12種類ある。
  1. 一日の推奨摂取カロリー量の表示: 有・無
  2. 各メニューのカロリー量の表示: 有・無
  3. 注文しやすさの操作: (a)・(b)・無
    (a)お勧めメニューとして、5つのサンドイッチをメニューの表紙に載せる。残りの
      サンドイッチは、折りたたまれたメニューの内側に載せる。また、メニューは
      紙シールで封がされており、内側を見るには封を切る必要がある。
    (b)お勧めメニューとして、5つのサンドイッチをメニューの表紙に載せる。残りの
      サンドイッチは、2ページ目に載せる。また、表紙のメニューの注文はボックスを
      チェックするだけだが、2ページ目のメニューを注文する際はメニュー名を
      記入する必要がある。
サンドイッチを注文した後に、飲み物と添え料理(チップスやフルーツなど)も注文できる。
飲み物と添え料理のメニューは同一で、カロリー量が表示されている。

主な結果は、
  ・1と2の表示により、平均総摂取カロリーがそれぞれ37.8kcalと60.7kcal減った。
   1と2の相乗効果はみられず、効果は加法的だった。 
  ・3(a)の操作により、平均総摂取カロリーが76.7kcal減った。
  ・3(b)の操作では、サンドイッチからの摂取カロリーは減ったが、飲み物や添え料理
   からの摂取カロリーが増えて、総摂取カロリーは減らなかった。
  ・1や2の効果は、正しい情報を伝えたため(Information effect)ではなく、
   摂取カロリーへの注意を喚起したため(Salience effect)かもしれない。
  ・肥満者の総摂取カロリーへの効果はみられなかった。
これら結果は、カロリー情報や注文しやすさがメニューの選択に影響しうることを示している。
同時に、非肥満者に比べ肥満者への効果は小さく、肥満対策としての効果は小さい。

ありそうでなかった論文で、注文しやすさの操作の仕方など、色々と興味深かった。
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回り道して日本に戻って来た研究者。もろ農経だと需要がないので、かろうじて農経でがんばっています。

詳細は、「はじめに」を参照してください。

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