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農業保護政策の「価格支持」と「直接支払い」を比較する際の落とし穴

大雑把に言うと、農業保護政策における「価格支持」とは、
特定の農産物の国内価格を一定の水準に押し上げる政策のことだ。
一方、「直接支払い」とは、特定の農家の所得を一定の水準に押し上げる政策のことだ。

完全競争市場下では「価格支持」よりも「直接支払い」の方が望ましいとされている。
理由は少なくとも2つある。第一に、「直接支払い」は市場に介入しないが、
「価格支持」は市場に直接介入するため市場原理を歪める原因になる
(WTO体制化では重要な問題)。第二に、「価格支持」は消費者負担なので
貧しい者も裕福な者も同程度に負担することになるが、「直接支払い」は
財政負担のため(累進課税制度により)裕福な者がより多く負担することになる。
そのため、社会福祉の面でも「直接支払い」のほうが望ましい。 

今回の論文は、農産物市場が完全競争という仮定を疑問視し、
これまでの「価格支持」と「直接支払い」の比較研究に一石を投じている。
キモは、売り手寡占や買い手寡占の市場では、完全競争市場の場合と比べ、
「直接支払い」の社会福祉に関する利点がかなり限定的になることを理論的に証明した点だ。 

“Agricultural Support Policies in Imperfectly Competitive Markets: Why Market Power Matters in Policy Design”
Carlo Russo, Rachel Goodhue, and Richard Secton
2011, American Journal of Agricultural Economics, 93(5): 1328-1340.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 農業保護政策の研究者へ 
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ 

この論文では、価格支持として最低価格保証(Price Floors)、直接支払いとして
不足払い(Deficiency Payments)に注目している。理論モデルはスルーして、
とりあえず、主な結論だけ以下に記しておく。
・ 不完全競争下では、デカップリング(つまり「価格支持」から「直接支払い」への
  農政改革)は必ずしも社会福祉を改善しない。
・ 下流部門が寡占化している場合、 従来の保護政策でも組み合わせ次第では、
  保護政策なしの場合よりも、社会福祉が高くなりうる。 
・ 最低価格保証制度と比べ、不足払い制度の方が必ず効率的というわけではない。 
・ 不足払い制度下では、農家が受け取るべき政策的利益の一部を仲介業者が
  受け取ることで、農家を十分保護するための負担(納税者負担)が増える可能性がある。
専門外のトピックなのであまり穿ったコメントはできないのだが、少なくとも、
完全競争市場を仮定して導き出された政策的含意には注意する必要がありそうだ。

気になる結果だったので、とりあえず紹介してみた。
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米国の学校給食プログラムによって子供の食生活は改善するのか?

今回は、米国の学校昼食プログラム(National School Lunch Program [NSLP])の
食生活への影響に関する論文を紹介したい。ネタも手法も目新しくないが、
NSLPの影響に関してはまだまだ異論が多く、社会的関心も高い。

この論文のキモは、対照群(Control Group)と処置群(Treatment Group)の
選択方法にある。NSLPの利用頻度(週0-5回)、学校がNSLPに参加しているか、
また学校朝食プログラム(National School Breakfast Program [NSBP])
への参加状況、などを考慮に入れて比較するグループを決めている。

“Does the National School Lunch Program Improve Children’s Dietary Outcomes?”
Benjamin L. Campbell, Rodolfo M. Nayga Jr., John L. Park, and Andres Silva
2011. American Journal of Agricultural Economics, 93(4): 1099-1130.
おすすめ度:
★★★☆☆ [星三つ] 学校給食問題に興味のある方へ 
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ  

データは1999年から2006年のNational Health and Nutritiona Examination
Survey[NHANES]を使っている。傾向スコアマッチング法(Propensity Score Matching)
を使い、就学している6-18歳の子供の栄養摂取量と健康的食生活指数
(Healthy Eating Idex [HEI])への影響を推計している。

まずはNSLPに参加している学校に注目して、NSLPに毎日参加しているいるが
NSBPには参加していないグループ(T1 =Five days NSLP/no NSBP)と、
NSLPとNSBPのどちらにも参加していないグループ(T2 =0 days NSLP/no NSBP)
を比べている。加えて、学校がNSLPに参加していないためNSLPとNSBPのどちらにも
参加していないグループ(T3 = no NSLP/no NSBP)をT1とT2と比べている。

主な結果は、
・ 「NSLPに参加していないグループ(T2)」と比べ、「NSLPに参加しているグループ(T1)」
  の方がビタミンやミネラルの摂取量が多いが、脂肪の摂取量も多い。そのため、
  全体の質に有意な差はみられなかった。
・ 一方、昼食の総カロリー摂取量はT2よりT1の方が有意に高かった。 
・ 「NSLPに参加しているグループ(T1)」と「NSLPに参加できないグループ(T3)」の
  昼食の間に有意な違いはみられなかった。
・ 「NSLPに参加していないグループ(T2)」と比べ、「NSLPに参加できないグループ(T3)」の
  昼食の総カロリー摂取量は有意に高く、他の食事では有意な差はみられなかった。
つまり、NSLPの食生活への影響は質よりも量ということだ。そのため、NSLPをより効果的に
するには、質への影響を保ちつつ量への影響を抑える必要がある。
著者らは、より明確なカロリー量の制限などの必要性を強調している。

NSLPで出されている昼食(写真)をご存知の方は、予想通りの結果と感じるかもしれない。
NSLP
野菜、果物、牛乳など、栄養面への配慮も(一応)みられるものの、
このような昼食を健康的だと感じる日本人は少ないだろう。
これは日本人に限った感覚ではない。子供を欧米系の学校に通わせている
近所の中国人家庭は、不健康という理由で学校給食は選ばず、家から弁当を
持たせている。学校給食を「選ばない子」と「選べない子」の差を説明してくれるケースだ。 

地元産、有機栽培、フェアトレード… 乱立する食品ラベルは互いに競合しているのか?

遅ればせながら、AJAE v.92 n.3の二本目。

みなさんも普段の生活で、地元産、有機栽培、エコ、フェアトレードなど様々な食品ラベルを
目にしていると思う。そして、「こんなに多様な価値観のラベルが乱立したら、
お互いの価値観が競合して、個々のラベルの効果が減るのでは?」と思った方も
少なくないと思う。 

今回の論文は、そんな疑問に部分的に答えてくれる。
キモは、農作物の「生産行為に関するラベル」(有機栽培など)と「生産地ラベル」
(地元産など)の交互作用を実証した点だ。

“Does Local Labeling Complement or Compete with Other Sustainable Labels? A Conjoint Analysis of Direct and Joint Values for Fresh Produce Claims”
Yuko Onozaka and Dawn Thilmany McFadden
2011. American Journal of Agricultural Economics, 93(3): 693-706.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 食品ラベルの研究者へ 
★★★★☆ [星四つ] 消費者関係の農業経営研究者へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方々へ  

選択実験では、リンゴ(Gale Apple)とトマト(Red Round Tomato)に注目している。
これら作物は、昔から米国全土で売られており、輸入量もある程度あるためだ。
実験では、生産行為に関するラベル(有機栽培、フェアトレード、カーボンフットプリント)
と生産地ラベル(地元産、国産、海外産)の影響を調べている。
選択実験の詳細は元論文を参照してほしいが、選択肢の設定や選ばせる順番など、
食品ラベル関係で選択実験をしたい方には非常に参考になると思う。
また、選択実験の根底にある経済理論に関して明らかにしている点も好感が持てる。

2008年にウェブ調査を実施し、米国全土の食品買い物客1,052名から有効な回答を得ている。
実証分析では、同一人物による選択の相関を考慮に入れた、パネル混合選択モデル
(Panel Mixed Logit Model)を使っている。

主な結果は、
 ・生産地の選好は、地元産>>国産>海外産。
 ・リンゴでは、有機栽培×海外産(+)とカーボンフットプリント×海外産(―)で
  有意な交互作用がみられた。つまり、有機栽培することで海外産の負の影響を
  軽減できる。また、カーボンフットプリントが高いと海外産への選好がさらに下がる。
 ・トマトでは、有機栽培×海外産(+)、フェアトレード×地元産(+)、
  フェアトレード×海外産(+)、カーボンフットプリント×地元産(-)、
  フェアトレード×カーボンフットプリント(+)で有意な交互作用がみられた。
  これらは、フェアトレードと生産地ラベルの相補効果、フェアトレードでカーボン
  フットプリントの負の影響を軽減できる、地元産のカーボンフットプリントにより厳しい、
  などを示している。
 ・地元産や国産と有機栽培の間に有意な交互作用はみられなかった。

個人的に最も興味深かったのは、地元産や国産と有機栽培ラベルの関係が足し算的で、
相乗効果がみられなかった点だ。地元産+有機栽培は日本で最もよく目にする組み合わせ
だろう。日本でも相乗効果がないのか気になるところだ。
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回り道して日本に戻って来た研究者。もろ農経だと需要がないので、かろうじて農経でがんばっています。

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