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中国では男女比がより不均衡になると貯蓄率が増える?[加筆あり]

中国における男女比不均衡は、「喪われた女性たち(Missing Women)」を筆頭に、
その原因や影響が多くの論文で議論されている。
今回は、そんな論文の中でも変わりダネを紹介したい。
一般の人にも比較的わかりやすく、個人的にはお勧めの論文だ。

男女比不均衡というと、倫理や医療・健康といった文脈で議論されることが多い。
そんな中、この論文ではごく自然に経済的影響につなげているのが面白い。
肝は、結婚市場を論理に組み込むことで、男女比と貯蓄率の因果関係を示したところだ。  

“The Competitive Saving Motive: Evidence from Rising Sex Ratios and Savings Rates in China”
Shang-Jin Wei and Xiobo Zhang
NBER Working Paper Series. 2009. Working Paper 15093.
[Uprated: 2011. Journal of Political Economy, v119(3): 511-564.]
おすすめ度:
★★★★★ [星五つ]  中国研究関係者へ
★★★★☆ [星四つ]  開発経済学関係者へ
★★★★☆ [星四つ]  その他の方々へ
 
ここ20年の中国における急激な貯蓄率の増加は、既存の論理(ライフ・サイクル理論、所得の
不確実性に伴う予備的貯蓄、金融部門の未発達、文化的規範)では部分的にしか説明できない。
そこで、この論文では以下の仮説を検証している。

「男女比がより不均衡になると、男性が結婚するのがより難しくなる。
そのため、未婚の息子がいる世帯(or 未婚男性世帯)は、結婚市場での息子の(or 自分の)
競争力をあげるために貯蓄を増やす。結婚するために婿側が住宅などを用意することで、
これら世帯の貯蓄率の増加は住宅価格などを通してその他の世帯の貯蓄率にも影響する。」

実証には、省レベルのパネルデータと世帯レベルのクロスセクションデータを使っている。
省レベルの分析では、男女比の内生性に対して、省の固定効果(fixed effects)に加え、
地域間で異なる「一人っ子政策の罰金」を操作変数として使っている。
世帯レベルの分析では内生性に対してはほぼ無策だが、結婚式の時期、住宅価格、
銀行預金などより詳細なデータを使って仮説を検証している。
主な結果は、他の条件が同じならば、
   1. 未婚者の男女比が1.05から1.14に増えることで(1990-2007の実際の増加値)、
       国全体の貯蓄率は6.7%ポイント増加する。
   2. 6.7%ポイントというのは、中国における実際の貯蓄率増加値の48%にもなる。
   3. 都市部に比べ、農村部の方が男女比の貯蓄率への影響が大きい。
このような貯蓄率の上昇は、世界的な長期金利の低下や、中国における住宅バブルの
一因になりうる。つまり、男女比不均衡という人口的な歪みが、結婚市場+貯蓄率を通して、
中国経済や世界経済の歪みにつながることを示したわけだ。

とにかく、目の付け所が面白い。内生性への対策がやや甘いが、
結構いいジャーナルに掲載されてもおかしくない論文だと思う。

加筆しました:主な結果がなぜ重要かわからないというクレームが(妻から)ついたので、結果のあとに3行ほど加筆しました。(2010-02-02)
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