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腕力で、途上国の学校教育に関する男女差を説明する

学校に一年間長く通うことで将来の収入はいくら増えるのか(学校教育投資の収益率)?
また、子供の健康状態を改善することで就学年数はどれだけ増えるのか?
いまだ多くの研究者が取り組んでいる問題だ。

そして、多くの途上国で、「学校教育投資の収益率」や「健康状態の就学年数への影響」には
有意な男女差があることが実証されている。それら収益率や影響は、女性にとっての方が
男性にとってよりも大きいことが示されている。

では、なぜこのような男女差が生じるのか?有力な説の一つに、経済成長に伴って
「女性に比較優位がある技能集約型労働」の需要が増えるからだという説がある。
しかし、そのような労働需要の変化がみられない途上国でも有意な男女差は
実証されており、それら途上国における男女差はうまく説明できずにいた。 

そこで今回の論文は、上記のような男女差をあらゆる途上国において説明しうるモデルを提案
している。キモは、労働者の性質に腕力(Brawn)という新たな要素を加えることで、生物学的
男女差をモデルにうまく組み込み、生物学的仮説も含めて厳密に実証している点だ。

“Human Capital Investment and the Gender Division of Labor in a Brawn-Based Economy”
Mark Pitt, Mark Rosenzweig and Nazmul Hassan
2012. American Economic Review, forthcoming.

“Economic Growth, Comparative Advantage, and Gender Differences in Schooling”
Mark Rosenzweig and Junsen Zhang
2011. Working Paper.
おすすめ度:
★★★★★ [星五つ] 途上国の教育問題の研究者へ 
★★★★★ [星五つ] 途上国の男女格差の研究者へ 
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ  

今回は2本セットで紹介したい。1本目は経済モデルの貢献が大きく、
2本目ではそのモデルをより厳密に実証している。

これら論文のモデルはRoy-type経済モデルをベースにしており、既存モデルとは
主に以下の三点で異なる。
(1) 労働者の性質を技能(Skill)と腕力(Brawn)の二要素でとらえる;
(2) 腕力では男性に比較優位があり(生物学的事実1)、技能では女性に比較優位がある;
(3) 同じ環境で同量・同質の食事をしても腕力の成長は男性の方が大きい(生物学的事実2)。

1本目ではバングラデッシュのパネルデータ、2本目では中国の双子データ+αを使っている。
それぞれの推計手法は論文を参照してほしいが、双子データを使った2本目のほうが
より厳密に内生性をコントロールできている(と思う)。
また、腕力は体格や出産時体重などを使って推測されている。

これら2本によって実証された主なストーリーは以下のとおりだ。
・ 腕力集約型の職種では技能(学校教育)への報酬が低く、腕力の比較優位が
  職種の選択に(部分的に)影響している。そのため、腕力に比較優位のある男性は、
  学校教育よりも腕力集約型の職種を選ぶ傾向が女性よりも強い。  
・ 男性の栄養状態が改善した場合、腕力が強くなり、腕力の収益率が増え、
  学校教育の機会費用が増える。そのため、男性にとっての最適な就学年数は
  減る傾向がある。 
・ 一方、女性の栄養状態が改善した場合、女性の腕力は男性ほど強くならない。
  むしろ、より良い状態で教育を受けられるので、学校教育の収益率が増える。
  そのため、女性にとっての最適な就学年数は増える傾向がある。

これら結果は、開発政策が所得や就学年数などの男女差に影響する可能性を示している。
たとえば、健康改善政策は女性の学校教育の収益率に影響し、農業開発政策は男性の
腕力の収益率に影響し、結果として職業選択や所得の男女差を助長するかもしれない。
また、腕力の男女差と腕力集約型の職種はほぼ必ず存在することから、
ほんとんどの国で上記のような男女差がみられると考えられる。

ひさびさに琴線に触れる論文だった。しかし、この手の論文を和訳するのは本当に骨が折れる…。
英語表現のほうがシンプルなので、ぜひ元論文を読んでほしい。

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