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価格と使用率の間係-ザンビアにおける基本的な医薬・衛生用品

途上国において非営利で基本的な医薬・衛生用品を配布するとき、大きく分けて
ソーシャル・マーケティング(Social Marketing)と公衆衛生(Public Health)の
2つのアプローチがある。前者は「少額でもお金を払った方が実際の使用率が上がる」
という理屈で、小売業者を通した低価格での配布を重視する。
一方、後者は「いかなる料金も、最貧困層が基本的な医薬・衛生用品を入手する障害になる」
という理屈で、クリニックなどを通した無料配布を重視する。 

この論文は、ソーシャル・マーケティングの理屈にある「価格と使用率の間係」に注目している。
この関係は、払ったお金を無駄にしたくないという心理的影響(サンクコスト効果)で説明される
ことが多い。一方で、より多く支払う人は、その品をより必要とする人である可能性もある
(スクリーニング効果)。この論文のキモは、新しいフィールド実験デザインを使って、
これらサンクコスト効果とスクリーニング効果を分けて推計した点だ。

“Can Higher Prices Stimulate Product Use? Evidence from a Field Experiment in Zambia”
Nava Ashraf, James Berry, and Jesse M. Shapiro
2010. American Economic Review, 100(4): 2382-2413.
おすすめ度:
★★★★★ [星五つ] 開発経済学関係者(特にHealth系)へ 
★★★★☆ [星四つ] 途上国のソーシャル・マーケティング関係者へ
★★☆☆☆ [星二つ] その他の方々へ

フィールド実験では、ザンビア共和国のルサカに住む1,260世帯に対し、Clorinという
飲料水の消毒薬の訪問販売を行っている。この実験のポイントは二段階の価格設定だ。
まず、市場価格と同じか安い価格(提示価格 Offer price)を提示して、
Clorin一本を購入するかどうか決めてもらう。第一段階で購入を決めた場合のみ、
提示価格と同じかさらに安い価格(購入価格 Transaction price)で購入できる。
大ざっぱに言うと、提示価格がスクリーニング効果、購入価格がサンクコスト効果に
関係している。その他の細かい設定(購入価格は販売員も事前に見られない…など)も
興味深い。詳しくは論文をチェックして欲しい。

主な結果は、
 ・ 提示価格がKw100上がるごとに、Clorinの購入率が7%下がる。
 ・ 他の条件が一定ならば、提示価格がKw100上がるごとに、Clorinの使用率が
   3-4%上がる。
 ・ Clorinの使用率を予測する上で、世帯の社会・経済的特性より、Clorinへの
   支払意思額(Willingness-to-pay)の方が役立つかもしれない。
 ・ 購入を決めた提示価格と世帯の所得や教育水準との間に有意な相関はみられなかった。
 ・ 購入価格とClorinの使用率の間に有意な相関はみられなかった。
 ・ 無料の場合と購入した場合を比べても、使用率に有意な違いはみられなかった。ただ、
   統計的に有意ではないが、購入した場合の方が常に使用率が高かった。
つまり、有意なスクリーニング効果はみられたが、サンクコスト効果の証拠はみつからなかった。
そのため、サンクコスト効果は、ソーシャル・マーケティングの根拠にならない可能性が高い。
一方、うまく価格設定することで、より効率的に必要度の高い人に医薬・衛生用品を分配できる
かもしれない。途上国のように厳しく予算が限られる状況では、そのような効率的分配が
重要になってくる。 

計量手法はシンプルだが、すごく丁寧に分析されている。
政策的含意の導出の仕方もひと味違っていて参考になった。

情報と経験と条件反射:なぜ実物を提示されると支払意志額が増えるのか?

「欲しい物を実物で提示されると、文字や写真だけで提示されるより、より魅力的に感じる
傾向がある。」というのは、既存の研究でも、経験的にも、広く知られている事実だ。
しかし、なぜ人間はそう感じてしまうのか?理由として、情報量や過去の経験など諸説紛々ある。

そんな中、「物の存在そのものに対する人間の条件反射的(本能的?)行動」が要因である
可能性を示したのがこの論文のキモだ。

“Pavlovian Processes in Consumer Choice: the Physical Presence of a Good Increases Willingness-to-Pay”
Benjamin Bushong, Lindsay M. King, Colin F. Camerer, and Antonio Rangel.
2010. American Economic Review, 100(4): 1556-1571.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 消費者行動の研究者へ 
★★★☆☆ [星三つ] 農経(経営含む)関係者へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方々へ

ラボ実験はCaltechの学生を対象に実施している(参加報酬はUS$20)。メイン実験では、
学生57名が菓子の競売に参加している。80種類もの菓子が用意されている。
競売はBDM(Becker-DeGroot-Marschak)方式で、参加者は競売用にUS$3渡される。
ポイントは、競売時に3つの異なる方法(文字のみ、写真のみ、実物)で菓子が提示される点だ。
そして、それら異なる提示方法の掛け金への影響を分析している。
競売後、結果に関係なく、参加者全員を実験室に30分間残らせるというのも面白い。
つまり、なにも競り落とせなかった人は、飲まず食わずで30分間待つことになる。

メイン実験の結果を説明するために、追加で異なる3つの実験を実施している。
食品の匂いの影響を調べるために、匂いのない小物類の競売をしたり。
過去の経験の影響を調べるために、味見付きの食品の競売をしたり。
パブロフ的な刺激(例:犬の実験での鈴の音)の影響を調べるために、
実物を透明のケースで囲って競売したりしている。

主な結果は、
 • 競売のときに実物を提示することで、参加者の支払意志額が著しく増えた(文字や写真
   だけの場合と比べ、約60%の増加)。つまり、有意な実物提示効果(real-exposure
   effect)がみられた。 
 • 有意な実物提示効果は、食品や安い小物類、参加者が好きなものや嫌いなもの、など
   あらゆる品物の競売でみられた。
 • 一方、写真、匂い、味見、透明のケースなどの操作は、支払意志額に有意に影響しな
   かった。つまり、情報量や経験では実物提示効果を説明できない。
 • そのため、実物提示効果は「品物の存在そのもの」によって引き起こされた「パブロフの
   完了過程」(Pavlovian Consummatory Process)で説明できる可能性が高い。
これら結果は、実際のビジネスへの示唆も含んでいる。例えば、レストランで、文字や写真の
デザートメニューに比べ、実物を見せるデザートトレイの方が売り上げが上がる可能性がある。
トレイに透明のケースを付けてはいけないのもポイントだ。他にも、商品パッケージの規制や
ネット販売などへの示唆も挙げている。

それにしても専門外の用語が多いし、“Pavlovian Consummatory Process”など造語?も
多くて、和訳がかなり面倒な論文だった。やっぱり、英語は英語のまま読むのが一番楽だなぁ。

認知能力とリスク回避性と我慢強さ

これまでの経済モデルは、リスク回避性や我慢強さは認知能力とは無関係に決まる
と仮定している。今回の論文は、この仮定の妥当性をフィールド・ラボ実験を用いて
検証している。大学生対象の実験では認知能力の分布が偏るので、
より現実に近い標本を使って実験しているのがミソだ。

“Are Risk Aversion and Impatience Related to Cognitive Ability?”
Thomas Dohmen, Armin Falk, David Huffman, and Uwe Sunde
2010, American Economic Review 100(3): 1238-1260.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] フィールド・ラボ実験好きな方へ
★★★☆☆ [星三つ]  認知能力好きな方へ
★☆☆☆☆ [星一つ]  その他の方々へ

著者らは、2005年のGerman Socio-Economic Panelの参加者(17歳以上)をランダムに
実験に招待し、参加に同意した1,012名が実験に参加している。認知能力の計測には、
広く使われているWechsler Adult Intelligence Scale (WAIS)に似た、11モジュール
からなるテストを用いている。リスク回避性は実際に賞金がもらえるくじ引きを使って、
辛抱強さは賞金の受取りを今日か一年後か選ばせることで測っている。
例によって、実験の詳細はAERサイトで入手できる。

主な結果は、
 ・ 認知能力の高い人は、より進んでリスクをとり、より辛抱強い傾向がある。
 ・ 認知能力とリスク回避性の相関は、サンプル全体で有意だが、
   女性と若年層の間で比較的弱い。
 ・ 性別、年齢、その他の社会・経済的な要素をコントロールしても、
   認知能力との相関は有意に保たれた。
このような相関は、「チョイス・ブラケッティング理論(Theory of Choice Bracketing)」や
「感情と認知の相互作用」によって説明できるかもしれない。例えば、認知能力が低い者は、
より狭い選択肢しか考慮しないため、よりリスク回避的で近視眼的になるかもしれない。

また、このような相関から以下のような示唆を導き出せる。(1)認知能力を測るテストの結果を、
計測しにくいリスク回避性や我慢強さの代理の尺度として使い、雇用や保険の契約内容に
反映できるかもしれない。(2)これら相関は、認知能力の影響を推計する上で(誘導型にしろ
構造推定にしろ)、推定値の偏りの原因になる。(3)認知能力の差から生じる経済的不平等が、
リスク回避性と我慢強さとの相関のために、さらに悪化する可能性がある。

ネタ自体はマニアックだが、そこから広範な問題について示唆が得られるのが面白い。
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回り道して日本に戻って来た研究者。もろ農経だと需要がないので、かろうじて農経でがんばっています。

詳細は、「はじめに」を参照してください。

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