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投票によって協力的になるのは民主主義育ちだけ?独裁体制育ちは?

「政策などを民主的に(投票によって)選ぶことで、それら政策はより効率的になる」という主張がある。ひいては、「民主主義が経済発展に貢献している」という主張だ。この主張を支持する事例も多いが、反例もけっこうある。そのため、より厳密に因果関係を検証する実験が行われ、その多くが「投票によってルールを決めることで人々はより協力的に行動する」という因果関係(投票の協力促進効果:the cooperation enhancing effect of elections)を実証している。

しかし、これら実験は民主主義の欧米国、それも教育や所得レベルが高い国(米国、スイス、オーストリアなど)でのみ実施されており、他の民主主義ではない国もしくは教育や所得レベルが低い国でも同様の因果関係がみられるかは疑問の余地がある。

そこで今回の論文は、同様の実験を中国で実施することで、投票の協力促進効果の一般性を検証している。キモは、中国では、投票よりもトップダウン型でルールを決めたほうが、協力促進効果が大きいことを実証した点だ。 

Authoritarian Norms and Democracy - experimental evidence from the
People’s Republic of China

B. Vollan, Y. Zhou, A. Landmann, B. Hu, C. Herrmann-Pillath
2012. Symposium on Economic Experiments in Developing Countries.
おすすめ度:
★★★★★ [星五つ] 政策研究者へ 
★★★★☆ [星四つ] 中国の研究者へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ 

サンプルは中国の学生150名と社会人149名だ。著者らは条件付き公共財供給実験を使い、条件導入への投票権の有無が、公共財供給にどう影響するかを検証している。文化的価値観に関するサーベイも行っている。 

ゲームは3名一組で行われる。はじめに各自10ポイントずつ配分され、そのうち何ポイントを公共財に寄与するか同時に決める(協議はできない)。寄与総額は1.5倍され、3名に等しく配分される。キモは、「10ポイント全てを寄与しないプレイヤーからは、制裁として2ポイント差し引く」という制裁ルールの有無と導入方法だ。コントロールグループは、はじめから制裁ルールなし。独裁グループでは、強制的に制裁ルールが導入される。民主グループでは、制裁ルールを導入するかどうかを多数決で決める。

主な結果は、
・ 寄与率の平均は、独裁グループがもっとも高く(60%)、民主グループ(50%)、
  コントロールグループ(47%)と続いた。社会人と学生の両方で同じ傾向がみられた。
・ 多数決によるSelection Effectはみられたが、Information Effectはみられなかった。
・ 制裁ルールへの賛成・反対にかかわらず、「権威に従う」という価値を
  より重視する人のほうが、独裁的制裁ルールにより強く影響された。
つまり、政策などの効率性は、投票の有無よりも「権威に従う」などの社会的規範に依存している可能性を示唆している。

学会論文なので、論文自体の完成度はまだ低いが、とても興味深い結果だと思う。
一見の価値ありだ。

人道的食糧援助は"紛争の手助け"になっているのか?

現行の人道的援助は本当に被援助国のためになっているのか?
これまで様々な切り口から検討されている問いだ。
たとえば、援助依存や戦略的援助などの問題があげられる。

今回の論文は人道的援助の中でも食糧援助に注目し、
紛争発生や紛争期間との関係を考察している。
キモは、「食糧援助は現物支給のため輸送中に窃盗や略奪されやすい」ことに注目し、
食糧援助が紛争を始めるまたは長引かせる手助けになっている可能性を
厳密に実証している点だ。

“Aiding Conflict: the Impact of U.S. Food Aid in Civil War”
Nathan Nunn and Nancy Qian
2012, Working Paper
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 途上国の食糧問題の研究者へ 
★★★☆☆ [星三つ] その他の開発経済学者へ 
★★☆☆☆ [星二つ] その他の方へ  

実証には、OECD以外の国の1971年から2006年のパネルデータを使っている。
データ元は、UCDP/UPRIO Armed Conflict Dataset(紛争関連)、
FAOSTAT(食糧援助関連)、そしてUSDA(米国の小麦生産関連)だ。
被説明変数は、武力紛争の発生、始まり、そして期間。
メインの説明変数は、米国からの食糧援助小麦の量だ。

実証する上での難題は、食糧援助と紛争の同時性や逆の因果関係である。
この論文では、経時的に変化しない国特有の性質(Country fixed effects)と
地域内に共通する経時的変化(Region-year fixed effects)をコントロールした上で、
食糧援助小麦量の操作変数として「援助の前年の米国の小麦生産量」と
「その国が米国から食糧援助をうける可能性」の交差項を採用している。
米国の食糧援助小麦量は前年の米国の小麦生産量に大きく依存しているが、
小麦生産量の変化は米国内の天候ショックしだいで途上国の状況とは無関係、
という性質を利用している。そして、「米国から食糧援助をうける可能性」と
交差することでクロスセクションの変化量を確保している。
より細かい証拠や頑健性チェックは論文を参照してほしい。

主な結果は、
 ・ 同時性や逆の因果関係を無視してOLSで推計した場合、食糧援助小麦の紛争発生への
   有意な影響はみられなかった。
 ・ 同時性や逆の因果関係を操作して推計すると、食糧援助小麦の国内紛争発生や期間
   (特に小規模の紛争)への有意な正の影響がみられた。
 ・ たとえば、米国からの食糧援助小麦が1,000メートルトン(MT)増えると、国内紛争が
   発生する確率が0.38パーセントポイント上がる。ちなみに、米国からの食糧援助小麦の
   平均量は27,600MTなので、平均で10%増やすと2,760MT増えることになる。
 ・ 一方、国家間紛争発生への有意な影響はみられなかった。
 ・ 米国からの食糧援助小麦が増えることで、他国もしくは他形態の援助が
   クラウディングアウトされている証拠はみられなかった。
 ・ 民族多様性の低い国、および交通基盤のしっかりした国では、
   食糧援助小麦の国内紛争への影響が小さかった。
これら結果は、援助食糧が窃盗や略奪されることで、被援助国の不利益につながる
可能性を定量的に示している。ただ、だからといって食糧援助が有害というわけではない。
今後、食糧援助による便益と損失の関係をより包括的に定量分析する必要がある。
特に、乳幼児死亡率など健康や栄養への影響は重視されるべきだ。

男女比と起業家精神と経済成長@中国

今回はコロンビア大のShang-Jin Weiがセミナーで発表してくれた論文だ。
また、Xiaobo Zhangと変わりネタをやっているようだ。

既存の研究では、男女比の不均衡は経済成長に負の影響があると言われている。
しかし、アジア(男女比不均衡で有名)の経済成長をみていると、些細な影響しかない
のではないかと思われる。そんな中、この論文は、起業家精神を論理に組み込むことで、
男女比不均衡が経済成長に正の影響をもつ可能性を検証している。
キモは、男女比の経済成長への重大な影響、それも既存の予想とは真逆の影響を
実証している点だ。

“A Darwinian Perspective on Entrepreneurship: Evidence from China”
Shang-Jin Wei and Xiaobo Zhang
2011. Working Paper.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 男女比の経済的影響に興味のある方へ 
★★★★☆ [星四つ] 中国研究関係者へ 
★★☆☆☆ [星二つ] その他の方へ  

主なストーリーは以下のとおりだ。女性に比して男性の数が少ないと、
男性にとって結婚相手を見つけるのが難しくなる。
そして、他の条件(外見や教育レベルなど)が同じなら、よりお金持ちの方が
結婚相手を見つけやすい。そのため、男女比が不均衡になればなるほど、
嫁獲得競争が激しくなり、お金持ちになるために起業家を志す若者が増え、
活発な起業家活動は経済成長を促進する。ちなみに、若者の起業家志向に
関しては、結婚市場を見越した両親や親族の影響も大きい。

このストーリーを実証するため、男女比と私企業成長率の地域差が大きい中国に
注目している。主な結果は二つ。
(1)男女比の地域差で、新しい私企業の成長率における地域差の約50%を説明できる。
(2)男女比が4ポイント増えると(2000年から2005年の実際の変化)、年間GDP成長率が
   2.04%ポイント増える。2.04%ポイントは、同時期のGDP成長率の約20%にあたる。

今回の論文はまだ草稿の段階だ。
これから、一人っ子政策を支持しているような誤解を与えないように議論を書き直して、
理論モデルを加えたいと話していた。個人的には、操作変数(IV)にもやや疑問が残るが、
ストーリーの面白さのほうが勝っている。 

ちなみに、Shang-Jinは去年からJDEのコエディタをやっている。
ランチ中にJDEの査読プロセス(特にその遅さ)について質問しよう思っていたのに、
失念してしまった。残念…。
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