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物品税の逆進性を緩和するには:「税の顕著性の影響」と所得の関係

物品税(消費税など)の問題点の一つに逆進性がある。つまり、低所得者の負担割合(注:負担額ではない)が、高所得者に比べて高くなる問題だ。この論文は、「税の顕著性」に注目し、より逆進性が低い課税方法について考察している。

顕著性に注目すると、物品税はPosted Taxと Register Taxの二種類にわけられる。Posted Taxとは値札に反映される税のことで、消費者への顕著性が高い。たとえば、日本では消費税込みの値段を表示するので、消費税はPosted Taxといえる。Register Taxとは、値札には反映されず、レジなどで会計するときに徴収される税で、消費者への顕著性が比較的低い。たとえば、米国の売上税などがある。

従来の経済学では、最終的な消費者の負担が同じである以上、どちらの課税方法でも消費者の厚生への影響は同じと考える。つまり税の顕著性は考慮に入れない。しかし、最近の研究によって、より顕著な課税方法の方が消費者への影響が大きいことが示されている。

そんな中、この論文のキモは、「物品税の顕著性の影響」が所得レベルによって違うことを実証し、その違いを利用することで歳入を減らさずに低所得者への税負担を軽減できる可能性を示した点だ。 

“Smoke Gets in Your Eyes: Cigarette Tax Salience and Regressivity”
Jacob Goldin and Ttiana Homonoff
2013. American Economic Journal: Economic Policy, 5(1): 302-336.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 税制を設計している方たちへ 
★★★★☆ [星四つ] 顕著性の研究者へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ 

まずは理論モデルを用いて、所得、タバコ税への注意深さ、税の顕著性、そして税負担の分配の関係を明らかにしている。実証では、米国のBehavioral Risk Factor Surveillance System (BRFSS)から、48州の1984年から2000年までのタバコ消費に関するデータ(毎日の喫煙の有無と消費量)を使っている(n=130万)。州ごとのタバコ税に関するデータは、Tax Burden on Tabacco 2008やWorld Tax Databaseの情報を使っている。

米国のタバコ税にはExcise tax(Posted Taxの一種)とSales tax(Register Taxの一種)の二種類がある。税率や時間的変動が州間で異なることを利用して、それぞれの税のタバコ消費への影響を推計している。価格や税率の変化が内生的に決まった可能性は低いというスタンスで、ひねりはないが実直な推計手法と頑健性チェックを積み重ねていくスタイルだ。

主な結果は、
・ Excise taxのタバコ消費への影響は、所得レベルに関係なく有意だった。
  Excise taxによる価格変化への弾力性は、高所得者間で-0.61から-0.31、
  低所得者間で常に約-0.30だった。
・ 一方、Sales taxのタバコ消費への影響は、低所得者間でのみ有意だった。
  Sales taxによる価格変化への弾力性は、高所得者間で-0.06から0.18、
  低所得者間で-1.13から-0.59だった。
これら結果は、タバコ税をExcise taxからSales taxに移行することで、歳入を減らさずに税の負担を低所得者から高所得者に再分配できる可能性を示唆している。

どちらかというと理論モデル重視な論文だが、実証論文としても十分面白いと思う。

投票によって協力的になるのは民主主義育ちだけ?独裁体制育ちは?

「政策などを民主的に(投票によって)選ぶことで、それら政策はより効率的になる」という主張がある。ひいては、「民主主義が経済発展に貢献している」という主張だ。この主張を支持する事例も多いが、反例もけっこうある。そのため、より厳密に因果関係を検証する実験が行われ、その多くが「投票によってルールを決めることで人々はより協力的に行動する」という因果関係(投票の協力促進効果:the cooperation enhancing effect of elections)を実証している。

しかし、これら実験は民主主義の欧米国、それも教育や所得レベルが高い国(米国、スイス、オーストリアなど)でのみ実施されており、他の民主主義ではない国もしくは教育や所得レベルが低い国でも同様の因果関係がみられるかは疑問の余地がある。

そこで今回の論文は、同様の実験を中国で実施することで、投票の協力促進効果の一般性を検証している。キモは、中国では、投票よりもトップダウン型でルールを決めたほうが、協力促進効果が大きいことを実証した点だ。 

Authoritarian Norms and Democracy - experimental evidence from the
People’s Republic of China

B. Vollan, Y. Zhou, A. Landmann, B. Hu, C. Herrmann-Pillath
2012. Symposium on Economic Experiments in Developing Countries.
おすすめ度:
★★★★★ [星五つ] 政策研究者へ 
★★★★☆ [星四つ] 中国の研究者へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ 

サンプルは中国の学生150名と社会人149名だ。著者らは条件付き公共財供給実験を使い、条件導入への投票権の有無が、公共財供給にどう影響するかを検証している。文化的価値観に関するサーベイも行っている。 

ゲームは3名一組で行われる。はじめに各自10ポイントずつ配分され、そのうち何ポイントを公共財に寄与するか同時に決める(協議はできない)。寄与総額は1.5倍され、3名に等しく配分される。キモは、「10ポイント全てを寄与しないプレイヤーからは、制裁として2ポイント差し引く」という制裁ルールの有無と導入方法だ。コントロールグループは、はじめから制裁ルールなし。独裁グループでは、強制的に制裁ルールが導入される。民主グループでは、制裁ルールを導入するかどうかを多数決で決める。

主な結果は、
・ 寄与率の平均は、独裁グループがもっとも高く(60%)、民主グループ(50%)、
  コントロールグループ(47%)と続いた。社会人と学生の両方で同じ傾向がみられた。
・ 多数決によるSelection Effectはみられたが、Information Effectはみられなかった。
・ 制裁ルールへの賛成・反対にかかわらず、「権威に従う」という価値を
  より重視する人のほうが、独裁的制裁ルールにより強く影響された。
つまり、政策などの効率性は、投票の有無よりも「権威に従う」などの社会的規範に依存している可能性を示唆している。

学会論文なので、論文自体の完成度はまだ低いが、とても興味深い結果だと思う。
一見の価値ありだ。

貧困世帯をターゲティングするとき、なぜPMTとCBTで結果が異なるのか?

今回は、途上国の社会的セーフティーネット・プログラムにおける
受益者の選別方法(ターゲティング)に関する論文を紹介したい。

日本でも生活保護受給者の選別の難しさが話題になっているが、
途上国でのターゲティングの難しさは日本のような先進国とは次元が異なる。
途上国では、政府が世帯所得を正確に把握するのが極めて難しいためだ。

そのため途上国では、所得に基づいた資力調査(means-testing)ではなく、
所有資産や家族構成から資力を推計する代理資力調査(proxy means tests [PMT])や、
地域住民らが中心となって受益者を選別するコミュニティ主導型ターゲティング
(community-based targeting [CBT])などが用いられている。
そして、それぞれの手法に長所と短所があり、どの手法が最適かは状況しだいだ。 

そんな中、この論文では、状況しだいで変化しうるターゲティング・パフォーマンスの
比較にとどまらず、「なぜPMTとCBTでターゲティング結果が異なるのか?」という
より普遍的な問題に踏み込んで分析している。キモは、これまでの情報(community
information)とエリートの占有(elite capture)のトレードオフという構図ではなく、
「貧困の概念の違い」という新しい視点からPMTとCBTの違いを実証している点だ。

“Targeting the Poor: Evidence from a Field Experiment in Indonesia”
Vivi Alatas, Abhijit Banerjee, Rema Hanna, Benjamin Olken, and Julia Tobias
2012. American Economic Review, 102(4): 1206-1240.
おすすめ度:
★★★★☆ [星四つ] 実際に貧困政策を設計している方たちへ 
★★★★☆ [星四つ] 開発系の研究者へ
★☆☆☆☆ [星一つ] その他の方へ 

著者らはインドネシアの640村で、貧困世帯に約US$3を支給する現金移転プログラムの
フィールド実験を実施している。このプログラムの受給者を選別するために、
3分の1の村ではPMTを、他の3分の1の村ではCBTを、残り3分の1の村では
PMTとCBTを組み合わせたハイブリッド・ターゲティングを用いている。
各手法のターゲティング・パフォーマンスは、消費ベースの貧困指標(1日2ドル以下)で
ターゲットした場合と比べて測っている。そのためのベースライン調査も実施している。

また、CBTとPMTの結果が異なる要因として、エリートの占有、コミュニティの努力
(community effort)、貧困の概念の違い(local concepts of poverty)、
情報の違い(information)に注目し、これら4点を検証できるように実験をデザインしている。

主な結果は、
 ・ 1日2ドル以下で貧困を定義した場合、CBTやハイブリッドに比べてPMTの方が
   より正確に貧困世帯を選別できた。しかし、違いはあまり大きくなく、
   最貧困層の選別では有意な違いは見られなかった。このパターンは、
   地域や村の特性に関わりなくみられた。 
 ・ 選別の満足度や合法性はCBTがもっとも高かった。例えば、PMT と比べ、
   CBTでは苦情件数が60%少なかった。
 ・ CBTにおけるエリートの占有の証拠はみつからなかった。
 ・ コミュニティの努力によってCBTのパフォーマンスは改善しうるが、集会を
   重ねるうちにパフォーマンスが下がる傾向がある。
 ・ CBTでは他の世帯の消費実態に関する情報がPMTに比べて少ない可能性もあるが、
   ターゲティング結果が異なる主要因ではなさそう。
 ・ CBTとPMTの結果が異なる要因は、「コミュニティの貧困の概念」が「一人当たり
   消費ベースの貧困の概念」とは異なる点にありそうだ。コミュニティでは
   消費よりも稼ぐ能力(earning ability)を重視する傾向がある。
   例えば、一人当たり消費が同等な世帯でも、未亡人の世帯を他の世帯より
   貧しいと選別する。

少し驚いたのは、ハイブリッド・ターゲティングのパフォーマンスが全ての面において
同等もしくは劣っていた点だ。CBTとPMTの組み合わせ方にもよるのだろうが、
ハイブリッドの有用性は「エリートの占有」の有無しだいのようだ。

また、最貧困層のターゲティングで、どの手法でも大差がなかった点も興味深い。
どのような貧困の概念でも、最貧困層は貧しいと認識されるからかもしれない。
ただ、情報やエリートの占有の状況は地域ごとに異なるので、
どの手法が最適かは地域ごとに検討する必要がある。
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回り道して日本に戻って来た研究者。もろ農経だと需要がないので、かろうじて農経でがんばっています。

詳細は、「はじめに」を参照してください。

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